フーダニット-67

         十二

「まず最初に、息子さんが犯人だった場合に就いて考えてみましょう。
もうある程度の結論は出ているようにも思えますが、娘さんへの説明も兼ねて細かく話をしていきましょう」
友人は息子の方へ目を向けて、そう云った。
「息子さんは、ずっとリビングに居ました。
この事は、一緒に居た僕が保証できます」
そこで友人は、娘の方を見遣る。
娘はその場には居合わせなかったのだから、状況を把握できていないかも知れない。
しかし娘は、納得したように細かく頷いていた。
友人は安堵して先を続ける。
「つまり今回の場合、息子さんには犯行は不可能だった、と考える事ができると思います」
友人の遠回しな表現に、息子は苦笑するようにしながら云った。
「何だか、随分慎重な云い方ですね」
「それはまあ、事実がどうであるのかは判らないからね。
軽軽に断言する事は避けよう、というだけだよ」
息子に向かって、友人も困ったような笑顔を見せてそう云う。
彼が先程述べた、結論を急がないようにというのは、犯人の特定に就いてだけではなかったようだ。
犯人ではないという判断に関しても、彼は慎重な態度を崩さなかった。

         十三

次に友人は、執事の方へ顔を向けて口を開く。
「さて、執事さんの場合はどうでしょうか。
ご夫人がお部屋へと戻られた後、執事さんは事件現場があった二階へと単身上がっていったのでしたね。
この時点では、疑う余地がありそうにも思えます」
そこで執事が口を挟んだ。
「しかし私が二階へ上がった時には、すでに事件現場である奥様の部屋には家政婦さんが居た訳です。
もしも私が、そのまま奥様の部屋へ足を運んだのだとすると、犯行の瞬間を家政婦さんに目撃されている筈です。
ですが家政婦さんは、犯行の瞬間は疎か、私が二階へ上がってきた事すらもご存知ではなかったようでございます」
そう云って、執事は家政婦の方を見遣る。
家政婦は、力強く頷いてみせた。
それを受けて、友人は思い付いたようにして質問する。
「あくまでも念のためにですが、家政婦さんはご夫人の部屋から席を外したりなどはしませんでしたか?」
家政婦は頭を振って応える。
「いいえ、とんでもございません。
私はずっと、奥様のお傍にお仕えしておりました。
私がお部屋から出ましたのは、リビングに下りていった時だけでございます。
むろん、私がお部屋を出るまでは、奥様はご存命でございました」
家政婦の返答を受け、友人は頷いた。
そして、娘の方へ顔を向ける。
それは、話に就いてこれているかという問い掛けのようだった。
娘は、口許で両手を合わせながら述べる。
「つまりお母さんが、その……命を落としたのは、必然的に家政婦さんが出ていった後の事だと云える訳ですね」
友人は、緩やかに頷いてみせる。
そして、彼は執事の方を向きながら口を開いた。
「そして執事さんは、家政婦さんがやってくるよりも前に、このリビングに戻ってきている。
僕と、君のお兄さんが証人だ」
その言葉を受けて、娘は得心したように述べた。
「ということは、執事さんも犯人なんかじゃない、という事ですね?」
「そう。
恐らくはそういう事になるだろうね」
その断定的でない口調に、娘は少し顔を顰める。
しかし、娘は文句を口にする事は無かった。
友人は娘の様子に、もう大丈夫だなと思った。
ふと執事の方へ目を遣ると、執事は安堵の溜め息を吐いているのだった。
そして友人は、一同に向かって云った。
「以上のように、息子さんと執事さんは――まだはっきりと断言はしないでおきますが――犯人ではあり得ないようだと云えるでしょう」
そこで、今度は息子が口を開いた。
「犯人らしくない人物を容疑者から外した次は、犯人と思しき人物に就いて言及するのが良いでしょう」
友人は目を伏せながら述べる。
「残っている容疑者の内、誰が一番怪しいか」
友人は、わざとそこで言葉を切った。
そして伏せていた目を開き、一同を見回してみる。
すると、その場に居た全員の視線が自分に注がれている事が判った。
当時の状況を伝聞でしか知らない娘すらも、遠慮がちではありながらも真直ぐに友人の顔を見据えている。
友人は複雑な心情で、頷いてみせた。
「皆さんお判りの様ですね。
一番怪しいのは、第一発見者である僕ですね」

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